第123回 吉田 弓美子

今シーズンの目標は“完走”。最終戦まで走り切りたい

久々登場の吉田弓美子プロが、復活優勝の舞台裏とゴルフに対する思いを明かします。

不思議なことだらけだった川奈での優勝

 みなさん、こんにちは。吉田弓美子です。日頃は温かいご声援をどうもありがとうございます。また、先日は「フジサンケイレディスクラシック」で優勝することができました。応援と祝福をしてくださったみなさん、どうもありがとうございました。今日はあの試合のことからお話ししたいと思います。

 ご存知の方もいるかもしれませんが、私はあの試合の前週に背中を痛めてしまって、2日目の途中で棄権してしまいました。痛みは「フジサンケイ~」の週になってもあったので、とにかく予選ラウンドの2日間をプレーすることだけ考えてスタートしました。そうしたら、初日は6バーディ・ノーボギーの「66」。私もキャディさんも家族もみんな想定外でした(笑)。あの日はショットもよかったのですが、パットがよく決まってくれました。2日目も相変わらず背中の状態はよくなかったので、18ホール回り切ることだけを考えました。そうしたら3つスコアを伸ばせて。それで首位タイで最終日を迎えたのですが、1番ホールの第2打のライが悪くて、打ち込みにいったのをきっかけにまた痛みが出てしまいました。2番ホールではカップのボールを自分で拾えずに、キャディさんにお願いするほどでした。

 その後は回り切ることだけを考えていたので、自分が首位タイで折り返したことも知りませんでした。クラブを振るだけで精一杯だったので、「今日は(最終組で一緒に回っている)二人のどちらかが優勝するのを見守る係なんだろうな」とずっと思っていたんです。でも、18番ホールのセカンドショット地点に行ったところで、「あれ? もしかしたら・・・」と思って。そのショットをグリーンに乗せて、ファーストパットを寄せて、グリーン脇でキャディさんとボーっとしている時に、「そうなんだ。私、優勝するんだ」とようやく優勝を意識しました。それで、短いパットを決めて「勝った!」と。本当に不思議な感覚でした。

 過去に勝った試合では、いつも「優勝したい」とか、「これで決まる」みたいな感じでプレーしていました。でも、今回は本当にそういう気持ちがなくて、最後の最後まで背中のことを気にしながらプレーしていたんです。だから、今回の優勝は過去の5勝とは全然違う感覚でした。

 あの試合はほかにも不思議なことだらけでした。そもそも私はあまり高麗グリーンが得意ではないんです(苦笑)。でも今年の大会は3日間を通してアプローチとパッティングが本当に上手くいきました。ただ、苦手とは言っても、川奈での「フジサンケイ~」に出るようになって10年ぐらいになるので、コースについて覚えていることが多かったんです。たとえば、「こちらサイドは外したらダメ」とか、「このグリーンは、こちらからは速い」とか。そういう経験がすごく生きて、いい結果につながったのかなと思います。

 不思議といえば、ドライバーの飛距離もそうでした。背中が痛いので思い切り振れないのに、なぜか飛距離が落ちなかったんです。ドライバーは去年から使っている『ゼクシオ ナイン』なのですが、いつも通りというか、むしろ例年より飛んでいるホールもありました。キャディさんとも「なんでだろうね?」と。ただ、自分の中に優勝争いをした時の感覚があって、それがプレーしているうちに無意識に蘇ってきて、その結果ショットがだんだんよくなっていった気はします。

自分にとって大きな意味があった昨年の最終戦とTHE QUEENS

 ここ数年の私は、多少ショットが悪くてもショートゲームで何とか踏ん張るというのが自分なりのスタイルだったのですが、今シーズンは、アプローチの感覚がなかなかつかめずにかなり苦しい立ち上がりになってしまいました。それは、やはり去年長くお休みしてしまって試合勘がなかったのが原因です。

 休んでいる間は、「この次の人生をどうしよう?」というぐらい悩みました。プライベートのゴルフは普通にできるんです。でも試合になるとゴルフ場に足を運べませんでした。気にかけてくれる先輩や同級生がいて、自分を慕ってくれる後輩もいる好きな現場なのに、そこに赴くことができないのはつらかったですね。無理に行くと、頭がボーっとしてしまって、「これはいったい何なの?」と。私は嫌なことがあっても、「そのきっかけを作ったのは自分だから」と思ってずっと生きてきたのですが、それがたまりにたまってしまったのかもしれません。

 でも、仲のいい選手に話しても自分のつらさを分かってもらうのは難しいし、身内を含めて人にあまり心配をかけたくなかったので、相談するのはやめておこうと思い、自分で何とかしようとやっていたら、訳が分からなくなってしまいました。それで、一度ゴルフから離れたほうがいいなと自分で判断したんです。

 最終戦(LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ)で復帰したのは、あの試合の出場権は1年間頑張ったご褒美だと思えたから。まして優勝しないで出るのは今はなかなか大変ですからね。でも、本当のことを言うと、初めは出ないつもりだったんです。じゃあなんで出たのかと言うと、通っていた病院の先生が「徐々によくなってきているから、もしもやってみたい気持ちがあるなら、行ってみてもいいよ」と言ってくれたから。それで、あの試合は予選落ちもないので(笑)、「行ってみたいです」と言いました。ただ、たしかに試合ではあるものの、兄にバッグを担いでもらったので、プライベートのゴルフをやってみようという感じでした。初日にティグラウンドに立って、ティアップしてボールを打てたのは何よりうれしかったし、大きな一歩でした。

 さらに、その後の世界4大ツアー対抗戦「THE QUEENS」に出たのも、私にはかなり大きな意味がありました。仲間たちのことがすごく好きなのに現場に行けず、心配してくれているのに何もできない自分がすごく悔しかったのですが、それが今度はみんなとチームで戦える。あの場にいられるのがうれしかったし、大会期間中は毎晩みんな一緒にご飯を食べたり、作戦を立てたりして、みんなで優勝を目指そうという一体感のようなものがひしひしと伝わって来ました。その意味では“2歩目”も大きかったなと思います。

ゴルフをやっていて、プロゴルファーになって本当によかった

 プロになってから、高校時代までの友だちはもちろん応援してくれていたのですが、一昨年ぐらいから交友関係がぐんと広がって、応援してくれる方も増えました。その中に、私の大好きなアニメの声優の方々もいます。みなさんとはゴルフを通じて知り合ったのですが、みなさんと話をした時に、「自分たちもプロだけど、つらいことはたくさんある」とおっしゃって。その話を聞いたとき、みなさんと知り合い、話をするきっかけになったゴルフというスポーツをやっていて本当によかったと心から思ったんです。これまで、プロゴルファーのみんなと出会えたのは自分にとって財産だなと思いながら過ごしてきたのですが、ゴルフをきっかけに自分の好きな世界の人と知り合えた。それも相手の方々も自分もプロフェッショナルで、おこがましいようですが、気持ちの保ち方とか、どこか似ている部分があるなと感じたんです。

 それ以外にも、ゴルフをやっていてよかったなと思うことがよくあります。私はつい最近30歳になったのですが、誕生日には本当に多くの方々に「おめでとう」と言っていただきました。普通に生活していたら、こんなことは絶対にないと思うんです。全国の方々に応援してもらえるのは自分がプロゴルファーだからだし、それもゴルフあってのつながりですよね。それを考えると、子どもの頃、父親にゴルフをやるように勧めてもらってよかったなとすごく思えて、プロゴルファーであることを大事にしようという気持ちがだんだん強くなってきました。その思いが、優勝スピーチでの「一度きりの人生をプロゴルファーとして生きたからには、最後までゴルフと一緒に人生を歩んでいきたい」という言葉になって出たのだと思います。

 今シーズンは早い時期に優勝することができましたが、正直に言うと、「私、本当に優勝したのかな?」という思いがいまだにあるんです。勝てたことはもちろんうれしいのですが、お世話になっている方々への報告を終えた後は、「早く気持ちを切り替えなきゃ」と思いました。だから、気持ちは優勝する前と何も変わっていないし、試合でも、まずは完走することを目指します。そして、今シーズンの目標も“完走”。最終戦まで走り切りたいと思っています。

吉田 弓美子(よしだ・ゆみこ)
1987年神奈川県生まれ。
10歳でゴルフを始め、アマチュア時代はナショナルチームのメンバーとして活躍。2007年プロに転向し、11年賞金ランキング42位に入り初のシード権を獲得。翌12年「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」でツアー初優勝。13年には年間3勝を挙げ賞金ランキング5位に。今年4月の「フジサンケイレディスクラシック」で2年ぶりのツアー6勝目。身長164センチ、血液型AB。
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