T.Ashino H.Oyama

XXIO9 開発担当者インタビュー 初代からの積み重ねによって生まれた自信作

初代モデルから数えて9代目となるゼクシオのゴルフクラブ『ゼクシオ ナイン』が、いよいよ発売される。スイングはそのままに、ダウンスイング前半に自然とタメをつくってくれるという「ヘッドスピードアップテクノロジー」をはじめ、新たな技術を採用し、さらなる飛距離アップに成功したゼクシオ ナインはどのように生まれたのか? また、新たにラインナップに加わった『ゼクシオ ナイン Miyazaki Model』誕生の背景とは? クラブ全体の開発を担当したダンロップスポーツ商品開発本部の芦野武史と、シャフト開発を担当した同部の尾山仁志に、開発の軌跡を振り返ってもらった。

スイング効率アップのためのヘッドの重量化とシャフトの軽量化・手元重心化

Q.まず、『ゼクシオ ナイン』の開発はどんなところからスタートしたのでしょうか?
芦野プロや上級者は、ダウンスイングでヘッドを体の近くを通すことで手首のコックの解放を遅らせ、ヘッドを速く走らせます。そういうヘッドの動きを、アベレージゴルファーがスイングを変えずにできるようにしようとしたのが「スイング慣性モーメント」という発想です。具体的には、体の中心を支点とした回転によって速く振れるようにするわけで、そのためにヘッドは重たくしつつ、シャフトやグリップを軽量化したのが前モデルの「ゼクシオ エイト」でした。ただ、シャフトの軽量化には自ずと限界があり、飛ばすための新たな方法がないか検討していました。そこで、ゼクシオ エイトを、ティーチングプロに試打してもらうと、ふと「ヘッドが重たくなっていくと、ダウンスイングでタメができますよね」という言葉を口にされました。それを聞いて、「スイング慣性モーメントの考え方は踏襲しつつ、スイングの効率を上げられないか」と考えたのがゼクシオ ナイン開発のスタートでした。
Q.クラブ開発でスイングにまで踏み込むとなると、よりシャフトの役割が重要になると思います。今回のシャフト「MP900」の開発は何から始めたのですか?
芦野ゼクシオの開発では、ヘッドやシャフト、グリップのテストを行いながら、関係者全員でクラブ全体としての目標値を決めます。今回も、目標とするヘッドの性能を出すにはあと2グラム重量が欲しいと。ただ、単にヘッドを重くするだけでは振りにくくなってしまうので、シャフトはもっと軽くして欲しい……そんな話し合いを常にしながら、それぞれのパーツ仕様を目標に向けて落とし込んでいきました。
より振りやすくするために、前モデルのシャフトにくらべ2グラムの軽量化と20ミリの手元重心化に成功した「MP900」カーボンシャフト。
尾山クラブを振りやすくするには、シャフトを軽量化・手元重心化するのが有効で、それができればクラブの慣性モーメントを変えることなくヘッドを重くできます。そして、ヘッドの重さを1グラム増やすために、シャフトを何ミリ手元重心化すればいいかは、力学的に計算できます。「ゼクシオ ナイン」ドライバーでは、前モデルから5ヤードの飛距離アップが目標で、それにはヘッドを2グラム重くすることが必要でした。それによって、シャフト開発では、2グラムの軽量化と20ミリの手元重心という目標が決まりました。
Q.2グラムの軽量化と20ミリの手元重心というのは難しい技術なのでしょうか?
尾山はい(笑)。今回は、私が関わった初代ゼクシオのシャフト開発に次いで大変だったという印象です。というのも、7代目から8代目のモデルチェンジの際に、1グラムの軽量化と10ミリの手元重心化を実現して、それも相当厳しかったのですが、軽量化も手元重心化も今回はその倍でしたから。当然、強度を落とす訳にはいきません。ドライバーでは、ベースとなるRとSを最初に作るのですが、図面を書いては作り、強度テストをして、足りなければ設計を変更するという作業を、数ヶ月間ひたすら繰り返しました。0.1、0.2グラムの変更を地道に積み重ねていくイメージですね。

“次の次のモデル”まで見据えて開発を進めるのがゼクシオの伝統

Q.ドライバーでは5ヤードの飛距離アップを目標にしたということですが、それはどのように決まったのですか?
尾山当社では、2011年に発表した中期計画の中で、「4年で10ヤードの飛距離アップ」という目標を打ち出しました。そうした高い開発目標に対して、13年に発売した8代目で5ヤードの飛距離アップに成功したので、ゼクシオ ナインではさらに5ヤードの飛距離アップを目指しました。言ってみれば、4年ぐらいかけて、10ヤード飛ばすための開発をしてきた感じですね。
芦野“次だけでなく、さらに次のモデル”までを見据えて開発を進めるのがゼクシオの伝統なんです。
トゥ・ヒール寄りの反発力アップのための新たな構造「ウイングカップフェース」。フェースとクラウンの接合部分を「W」にすることでロフトのバラつきを抑えた。
Q.ゼクシオ ナインでは、ヘッドは重量が増えただけでなく進化した部分がありますね。
芦野はい。ヘッドの開発では、重量の増加に加え、スイートエリアの拡大や深・低重心化の目標設定を最初にしました。ヘッドを重くすることで、どれくらいボールスピードが上がるかを計算で出すことができます。スイートエリアも、拡大する面積によって反発がどれくらい上がるかがわかります。この二つは「ボールスピードアップテクノロジー」に属する技術です。一方、深・低重心化は、ボールの飛距離に影響する高打ち出し・低スピンを生む「ゼクシオテクノロジー」に関わるものです。ご存じのように、重心はできるだけ深く、低くしたほうがボールは上がりやすくなります。それを設定した上で、それにはどれくらいの余剰重量が必要なのかを最初に計算しました。
尾山その二つの技術に加えて、先ほどのヘッドスピードアップテクノロジーの効果で、結果的に8代目にくらべ5.5ヤード飛距離をアップさせることができました。
Q.スイートエリアの10%拡大というのは、客観的に見てすごいと思うのですが、今回、ヘッドの開発で苦心されたのはどんなところですか?
芦野一つは、トゥ・ヒールのクラウン側への折り曲げ幅を大きくした「ウイングカップフェース」という新しい構造です。スイートエリアを広げるには、トゥ・ヒール寄りの反発を上げるのが有効という発想は以前からあったのですが、それをしつつ、ロフトのバラつきなくフェースとボディをつなぎ合わせるのは困難でした。それを、今回の形を採用することでバラつきを吸収することができました。また、フェースの肉厚分布も重要でした。フェースは軽ければ軽いほど、ヘッド後方に重量をもっていけます。今回、フェースを軽くしながら、目標とする強度と反発を実現できました。それと、バッヂとウエイトの一体化も苦心した点ではあります。8代目まで両者は別々でしたが、ゼクシオらしいデザインを踏襲しつつ、重心を深くするためにウエイトをできるだけ後方に配置しようと考えました。そのため、設計のスタート段階からデザインチームと話し合い、今回の形状を採用しました。

最終段階でシャフトの設計を変更し、目標の飛距離アップを達成

Q.こうしてお聞きしていると、ヘッドとシャフトのすり合わせが非常に大事なように思います。ゼクシオ ナインの場合、両者を組み合わせたテストはどのように行ったのですか?
尾山大規模なテストは複数回実施しました。それに向けて、シャフトとしての確認テストを数回行い、ある程度目途がついたら、大きなテストのためのシャフトを作りました。最初のテストでは、8代目からの5ヤードアップという目標に対して、クラブ全体としての到達度は半分ぐらいだったと思います。そこから少しずつ積み上げていって、最終的に5.5ヤードになったということです。
Q.その積み上げは順調に進んだのでしょうか?
芦野正直、順調ではなかったですね(苦笑)。ヘッドは、造形を決めてもすぐに作れるわけではありません。それが完成するまでのテストでは、従来のヘッドを使うことになります。重量を増やすのは鉛を貼ればできますが、スイートエリアの拡大による効果は、やはり新設計のヘッドでないとわかりません。そこまではあくまで仮定で、本当に計算通りの結果が出るかどうかは、やってみるまでわかりませんからね。シャフトにしても、2グラムの軽量化と20ミリの手元重心化という非常に高いハードルがあったので、「剛性分布を変えるとか、他のことはできないよ」と言われていたんです。でも、シミュレーションしてみると、目標とする距離に足りない。それで「シャフトで何とかできませんか? 尾山さんお願います」と(笑)。
尾山そのために、最後の段階では、さらにヘッドスピードを上げるために手元を少し軟らかくしました。シミュレーションやテストを繰り返すうちに、そのほうがコックの解放を遅らせる効果があることがわかったからです。ただ、手元重心にするにはボリュームが必要で、ボリュームを増やせば当然硬くなります。
「ヘッドとシャフトは主従の関係ではありません。開発はあくまでクラブ全体として考えます」(芦野)
ボリュームをもたせながら、軟らかくするという難しい要求を受けたわけでして(笑)。
Q.すると、開発では、やはりヘッドが“主”で、シャフトが“従”という関係になるのですか?
芦野いえ、そうではなくて、あくまでクラブ全体として考えます。ヘッドの重心位置にしても、シャフトの剛性やトルクと深く関わってきますので、ヘッド単体での設計はできませんから。
「ヘッドとシャフトは主従の関係ではありません。開発はあくまでクラブ全体として考えます」(芦野)
尾山ヘッドとシャフトのマッチングは、ゼクシオの開発でいちばん大事にしているところです。特に、今回のヘッドスピードアップテクノロジーでは今まで以上にマッチングが重要でした。
「ヘッドとシャフトのマッチングは、ゼクシオの開発でいちばん大事にしているところです」(尾山)
Q.MP900シャフトで、新たに取り入れた技術や構造はあるのですか?
尾山はい。手元には「ストレッチフィル」という、大きく変形しても強度が出る素材を使っています。それと、軟らかくて伸びやすい材料を組み合わせることで、重量を持たせつつ硬くならない設計にできました。また、これまではシャフト全体を見ながら層をどう積み重ねるかを考えていたのですが、今回初めて先端、中間部、手元という3つの部分に分けて積層を考えました。そもそも、この3つは径も肉厚も異なっていて、すべて同じ構造にすると、強度が不足する部分が出てきます。そこで、3つの部分それぞれについて、いかに少ないボリュームで強度を出すかを突き詰めていき、「部分最適設計」という考え方を採用しました。その結果、中間部は歴代のMPシャフトの中でも最も薄くなっています。

スチールシャフトのアイアンユーザーのための『Miyazaki Model』

Q.今回は、よりしっかりした振り心地の『Miyazaki Model』も発売されました。そもそもなぜこのモデルを加えたのでしょうか?
芦野商品企画部の市場調査の結果を見て、スチールシャフトのアイアンを使っているユーザーは、ゼクシオのレギュラーモデルよりももう少し重くて、安定感のあるドライバーを求めていることがわかりました。そうした声に応えるラインアップにしようと考えて作ったのがMiyazaki Modelです。ただし、設計にあたっては、たんに重量を増やすのではなく、振りやすさも追求する必要がありました。それには、クラブの慣性モーメントを小さくすることが重要であり、そのためにヘッド、シャフトの重量を決め、そこに落とし込んでいった結果、総重量でレギュラーモデルより20グラム近く重い299グラム(Sシャフト)というスペックが決まったのです。
スチールシャフトのアイアンユーザーを想定して開発された『ゼクシオ ナイン Miyazaki Model』に装着される「Miyazaki Melas(メラン)」。Melasはギリシャ語で「黒」を意味する。
Q.装着されている「Miyazaki Melas(メラン)」の開発は、どのようにスタートしたのですか?
尾山MP900の形がある程度固まってからでした。Miyazakiには、「スリクソン Z45 シリーズ」ドライバーにカスタム用としてラインアップしている50グラム台のシャフトがあり、当初はそれを使えないかという案も出ました。でも、テストを重ねるうち、ユーザー層を考えると、ツアープレミアムシャフトとして展開しているMiyazakiよりも、もう少しヘッドスピードが遅いゴルファーでもやさしく使えるシャフトのほうがいいという結論に至りました。そこで、新たに設計を起こしました。
Q.Miyazaki Melasにも、ヘッドスピードアップテクノジーの効果はあるのですか?
尾山はい。基本的なコンセプトはMP900と同じです。MP900に採用している、東レ(株)製の高性能素材をはじめ、同様の先端技術と最新のテクノロジーがMiyazaki Melasにも入っています。設計も、同じような重量帯のクラブと比べると手元重心になっているので、ヘッドスピードアップテクノロジーの効果が期待できます。
Q.Miyazaki Modelのヘッドはレギュラーモデルと同じなのですか?
芦野ウエイト重量を増やすことで、ヘッド重量がレギュラーモデルより1グラム重くなっています。ただ、8代目とくらべると、3グラム増えることになるため、それに耐えるためのシャフトの重量と重心位置が必要でした。
尾山ヘッドが重くなる分、同じシャフトだと、より“しなり感”が出てきます。このくらいの重量になると、シャフトにもある程度重みやしっかり感が求められます。Miyazaki Melasでは、重量とトルクを抑えながら、ヘッド重量の増加分を吸収しました。
Q.まだ発売前ですが、Miyazaki Modelに対する反響はいかがですか?
芦野当社でティーチングをしているクラブドクターたちに試打してもらった際、「ものすごく勧めやすくなった」と言われました。既存のスペックでは、どうしてもゼクシオが当てはまらないお客様がいたけれど、これがあればカバーできると。具体的には、我々が想定した、スチールシャフトのアイアンのユーザーで、ゼクシオではちょっと物足りないというゴルファーにも、これがあれば十分だという声はかなり聞かれました。「お客様の顔が見える」とも言われたので、かなりニーズはあると思います。
尾山黒をベースにしたカラーリングも好評ですし、ショップの方はスリクソンのMiyazaki装着モデルをご存じなので、「ゼクシオにもMiyazakiをつけたんですね」と好意的にとらえてくださる方は多いですね。

ゼクシオの開発ではヒューマンテストが何よりも大事

Q.今までのお話から、ゼクシオ ナインは、初代モデルからの積み重ねによって生まれたのだと実感します。
尾山そうですね。シャフトの軽量化ひとつとっても、いきなりはできません。代々積み重ねてきたベースがあるからできるんです。生産量にしても、シャフトを内作しているクラブメーカーはあっても、当社ほど多くシャフトを生産しているクラブメーカーは他にありません。
芦野おそらく同じ社内でないと、こんなシャフトは開発できないと思います。外注メーカーに、同じような要望を出しても「できません」と突き返される気がします(笑)。
尾山自社でシャフトを作ることで、品質基準は他のメーカーより厳しくなっていると思います。万が一折れたら自分たちの責任になりますからね。
Q.ヘッドとシャフトを同じ社内で開発、生産していることが、ゼクシオの強みなのですね。
尾山そう思います。たとえば、シャフトのフレックスやトルクを指定して、その数字どおりのものができたとしても、ヘッドと合うかは打ってみないとわかりません。組み合わせて打ってみて、「もう少しつかまるようにしないといけない」とか、「球が上がるようにしたい」といったことがどうしても出てきます。そういうチューニングは、やはり自社のほうが緻密にできます。
芦野それに、社内でやるほうが開発のスピード感も出ます。試作にしても、自分たちでやることで、繰り返し、たくさんできますから。
Q.そうして完成したゼクシオ ナインについて、開発に込めた思いがあれば聞かせてください。
芦野ゼクシオの幅広いユーザーに合う新しいモデルを作るには、やはりヒューマンテストが大事なんです。それは歴代モデルの開発でずっとやってきたことで、それが、ゼクシオがずっと信頼されつづけている理由だと思います。それと、ゼクシオの開発の企画書を作る時には、「やさしさ、振りやすさ」「爽快な打球音」「飛距離」という3つを必ず書きます。特に、飛距離で必ず前モデルを超えるというのは、開発の最優先課題になっています。ゼクシオ ナインも、変える部分と変えない部分をしっかり考えながら開発を進めたことで、理想に近いものができたと思っています。
兵庫県内にある「ゴルフ科学センター」で行われる、ゼクシオの想定ユーザーを対象にした実打テスト。
尾山実はゼクシオのゴルフクラブには、「すべての人が80点以上」という、初代から変わらない基本コンセプトがあります。つまり、誰が打っても80点以上すなわち合格点がもらえることを目指しているんです。
芦野それと、「1球目からナイスショット」というのもありますね。
尾山シミュレーション技術や計測に関する技術は年々進歩しています。歴代のゼクシオは、それらをうまく活用しながら新しい技術を取り入れてきました。ただ、やはりクラブは人間が扱うものなので、芦野が言うように、私たちはヒューマンテストを一番大事にしています。人間の感性に訴える部分というのは、クラブ全体のきめ細かいチューニングによってできるものだからです。つまり、科学技術の進歩とベーシックなヒューマンテストを組み合わせながら、ゼクシオは代々進化を続けてきました。今回も自信を持って皆さんにお勧めできるものができたと思っています。

芦野武史(あしの・たけし)

ダンロップスポーツ株式会社 商品開発本部 クラブ開発部 課長
1999年住友ゴム工業(株)入社。テニスラケット、テニスボールの開発を経て、2010年よりゴルフクラブの開発に従事。ゼクシオは、7代目でフェアウェイウッド、8代目はドライバーを担当し、ゼクシオ ナインでは全番手の開発を手掛ける。

尾山仁志(おやま・ひとし)

ダンロップスポーツ株式会社 商品開発本部 クラブ開発部 課長
1992年住友ゴム工業(株)入社。一貫してゴルフクラブ開発に従事し、ゼクシオでは、初代、2代目、8代目、ゼクシオ ナインでシャフト、4代目~6代目ではヘッドの開発を担当。現在はゼクシオのほか、「Miyazaki」「スリクソン」などダンロップの全ブランドのシャフト開発を手掛ける。